介護事業者への提言と今後のアクションプラン

● 緊急的な離職防止策の実施: まずは目前の離職増加リスクに対処するため、賃金引き上げや勤務環境改善などできることから即座に実行に移します。具体的には、他業種への転職を迷っている職員に対し思い切った給与改善を提示したり、4月の給付制限短縮を待たず離職しようと考えている職員と面談して引き留めを図ります。現場の不満や要望を聞き取り、速やかに職場環境の改善策(人員配置の見直しや休暇取得推進など)を打ち出します。また、管理職自ら現場に入りサポートするなどして現有職員の負担軽減に努め、これ以上の離職を食い止める緊急対策を講じます。

● 中長期的な処遇改善と採用力強化: 平均より低い処遇を放置すれば人材流出は避けられないため、中長期的な賃金改善計画を策定し実行します。例えば、3年後までに基本給〇%アップ、5年後までに全産業平均との賃金格差を△万円以内に縮める、といった目標を立て、毎年度の昇給や賞与で着実に反映させます​

この計画は職員にも公表し、将来的な処遇見通しを示すことで安心感を与えます。同時に、採用面では求人条件の見直しと発信力強化を図ります。未経験者歓迎や資格取得支援を明記した求人票を作成し、SNSや求人サイト等も活用して広く人材を募ります。外国人材についても、地域の受け入れ支援団体や送り出し機関と連携して計画的に採用を進めます。現在28,000人余りの特定技能介護人材が働いていますが​、国の方針も踏まえ今後さらなる増員が見込まれるため、自社でも受け入れ基盤を整備しておきます。具体的には、外国人を指導できる担当者の育成や多言語の生活マニュアル整備など、受け入れ準備を前倒しで進め、採用枠拡大のチャンスにすぐ対応できる体制を作ります。

● 定着促進と人材育成の風土づくり: 採用した人材を定着させるため、組織風土自体を「人を大切にする」ものへ転換します。経営層が率先して**“人財”重視のメッセージを発信し、現場の声を経営に反映させる仕組みを構築します。例えば、離職率や残業時間といった人事KPIを経営の重要指標としてモニタリングし、悪化の兆しがあればすぐ対策を講じます。また、定期的に従業員満足度調査を実施し、職員のモチベーションや不満点を把握します。結果に基づき職場環境の改善計画を策定し、PDCAサイクルを回します。さらに人材育成に投資する企業文化**を根付かせます。新人研修からOJT、資格取得支援、リーダー研修まで一貫した人材育成体系を整備し、「この会社で学び成長できている」という実感を職員にもってもらいます。そうすることで愛社精神や仕事の誇りが醸成され、離職抑制につながります。表彰制度の導入も有効です。定着年数の長い職員や資格取得者、業務改善に貢献した職員を定期的に表彰し、努力や貢献をきちんと評価します。職員が将来に希望を持ち、働き続けたいと思える職場づくりこそが、長期的に人手不足倒産を防ぐ根本策となるでしょう。

● 関係者との協働と情報共有: 人手不足対策は一社単独では限界があるため、業界全体や地域ぐるみでの協働が重要です。自治体主催の人材確保支援事業(例えばハローワークによる介護分野の就労支援パッケージ​に積極的に参加し、国・自治体の支援策を有効活用します。地域の同業他社との情報交換会を行い、離職率が低い施設の成功事例やノウハウを共有します。例えば、ある施設でうまくいったシフト管理方法やIT導入事例​を横展開することで、自社の改善に役立てます。また、介護業界団体を通じて国に対し処遇改善や規制緩和を提言し、業界全体の環境改善を促すことも大切です。専門人材(社会保険労務士や人材コンサルタント)から助言を得るのも有効でしょう。第三者視点で職場環境を診断してもらい、離職防止策のブラッシュアップを図ります。要は、社外のリソースも積極的に取り入れて総力戦で人材確保・定着に取り組むことが、生き残りのカギとなります。

以上のような対策を講じることで、令和7年4月から予想される離職増加の波にも対応し、介護業界の人手不足倒産の増加を未然に防ぐことができるでしょう。雇用保険法改正は一見労働者有利に思えますが、見方を変えれば事業者にとっても自社の魅力を高め人材を引き留める好機と捉えることができます。待遇改善や働き方改革はコストではなく将来への投資です。人材こそが介護事業の生命線であることを再認識し、業界・企業を挙げて働きやすい職場づくりと人材育成に注力することで、安定した事業運営と良質な介護サービス提供につなげていくことが可能となるでしょう。

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