介護業界の人材流動の問題を他業界と比較すると、いくつか特徴が見えてきます。まず賃金水準について、介護職員の平均年収は2022年時点で約392.4万円と、全産業平均を年間で100万円以上下回っています
月換算では全産業平均より約8.7万円も低く、この賃金格差が介護人材流出の大きな要因になっています
政府も処遇改善加算の拡充などで賃上げを図っていますが、物価高騰や他産業のベースアップには追いついていないのが現状です。実際、大手労組からは「来年度の加算拡充では全く足りない。他産業への人材流出を防ぐにはもっと賃金を上げていかないといけない」との指摘が出ています
また労働条件の面でも、介護は夜勤やシフト勤務が避けられず肉体的・精神的負担が大きいのに対し、他業界ではリモートワーク導入や勤務時間短縮など働き方改革が進んでおり、その差が人材獲得競争に影響しています。他業界でも少子高齢化による人手不足は共通課題ですが、介護分野は高齢化に伴う需要増が著しく、必要人材数の伸びが他産業より圧倒的に大きい点で異なります。厚労省の推計では、2026年に約240万人、2040年には約272万人の介護職員が必要と見込まれ、現在の延長では2026年に約25万人、2040年には約57万人の人材が不足する恐れがあります
これは裏を返せば、他産業以上に大量の人材を毎年確保し続けなければ需給ギャップが拡大するということです。実際、2025年にはいわゆる「団塊世代」が後期高齢者となり介護需要がピークを迎えますが
そのタイミングで労働移動が活発化すれば介護現場の人手不足は一層深刻化するでしょう。他業界では離職率自体は介護より高い業種(例えば宿泊・飲食サービス業は30%前後)もありますが、それらの業種は賃金や働き方の柔軟性で競争力を持つため人材を呼び込みやすい側面があります。介護業界は賃金・待遇面で劣位にあるうえ、年々増大する需要に追いつく必要がある点で、他業界以上に積極的な人材確保策が求められていると言えます。
コメント