「主任に任せたいのに、なかなか育たない」
「リーダーにした途端、本人が苦しそうになる」
「現場をまとめてほしいのに、結局こちらが全部判断している」
「主任やリーダーが、部下に遠慮して指導できない」
医療・福祉法人の経営者、理事長、施設長、事務長の方から、このようなご相談を受けることがあります。
人手不足が続く医療・福祉の現場では、主任・リーダーの存在が非常に重要です。
経営者や施設長が、すべての職員を直接見続けることはできません。
現場の小さな違和感、職員の変化、利用者様・患者様への対応、家族対応、多職種連携、業務改善。
これらを現場で拾い、組織を前に進める存在が主任・リーダーです。
しかし実際には、主任・リーダーが思うように育たない法人も少なくありません。
では、なぜ主任・リーダーが育たないのでしょうか。
結論から言うと、本人の能力不足だけが原因ではありません。
多くの場合、主任・リーダーが育つための役割、権限、育成、評価、対話の仕組みが整っていないことが原因です。
主任・リーダーが育たない理由1
「仕事ができる人」をそのまま主任にしている
医療・福祉の現場では、仕事ができる人が主任・リーダーになることが多くあります。
看護や介護の技術が高い。
利用者様や患者様への対応が丁寧。
記録が正確。
シフトにも協力的。
責任感が強い。
周囲からの信頼もある。
こうした職員を主任やリーダーに任命すること自体は、決して間違いではありません。
ただし、ここで注意が必要です。
現場業務ができることと、
人を育て、チームを動かすことは、別の力です。
本人が現場で優秀だからといって、すぐに部下を育てられるわけではありません。
むしろ、仕事ができる人ほど、次のような状態になりやすいです。
「自分でやった方が早い」
「部下に任せるより、自分が動いた方が確実」
「教える時間がない」
「結局、自分が抱えた方が現場が回る」
その結果、主任・リーダー本人が業務を抱え込みます。
そして、周囲の職員は育たず、主任・リーダーだけが疲弊していきます。
主任・リーダーが育たない理由2
役割が明確になっていない
主任・リーダーが育たない法人では、そもそも主任・リーダーの役割が曖昧なことがあります。
「主任なんだから、現場を見てほしい」
「リーダーだから、周りをまとめてほしい」
「管理職として、もっと自覚を持ってほしい」
このように言われても、本人からすると、
何をどこまで判断してよいのか。
どこから上司に相談すべきなのか。
部下にどこまで指導してよいのか。
自分は現場業務と育成業務のどちらを優先すべきなのか。
ここが分かりません。
役割が曖昧なまま主任・リーダーになると、本人は常に迷います。
部下に言いすぎると嫌われるのではないか。
でも言わないと現場が乱れる。
自分で判断すると上司から違うと言われるかもしれない。
でも確認ばかりしているとリーダーらしくないと言われる。
この状態では、主任・リーダーは自信を持って動けません。
主任・リーダーを育てるには、まず法人側が、
主任・リーダーに何を期待しているのか
どこまで任せるのか
どんな判断をしてほしいのか
何を評価するのか
を言語化する必要があります。
主任・リーダーが育たない理由3
権限がないのに責任だけ負わされている
主任・リーダーが苦しくなる大きな原因が、責任と権限のズレです。
現場をまとめてほしい。
部下を指導してほしい。
問題が起きたら対応してほしい。
離職を防いでほしい。
業務改善もしてほしい。
このように責任は求められる。
しかし一方で、
シフトや配置の決定権はない。
部下の評価に関われない。
必要な改善提案をしても通らない。
上司が最終的に判断を覆す。
部下に指導しても、上が守ってくれない。
この状態では、主任・リーダーは動けません。
部下から見ると、主任・リーダーに権限がないことはすぐに分かります。
すると、部下は主任・リーダーの言葉を軽く見ます。
主任・リーダーはさらに言いにくくなります。
結果として、現場の統率が取れなくなります。
主任・リーダーに責任を持たせるなら、同時に必要な権限も整理する必要があります。
すべての権限を渡す必要はありません。
ただし、
どこまで主任・リーダーが判断してよいのか。
どの範囲なら現場で決めてよいのか。
どの内容は施設長や上司に相談するのか。
部下指導の場面で、上司がどう支えるのか。
この線引きは必要です。
主任・リーダーが育たない理由4
部下との関わり方を学ぶ機会がない
医療・福祉の現場では、主任・リーダーになる人が、部下との関わり方を体系的に学ぶ機会が少ないことがあります。
現場業務は経験で覚えてきた。
先輩の背中を見て学んできた。
自分も厳しく指導されてきた。
だから、自分も同じように指導しようとする。
しかし、今の若手職員には、それが通用しないことがあります。
少し強く言うと、ハラスメントと思われるのではないか。
注意すると、すぐ辞めてしまうのではないか。
価値観が違いすぎて、何を考えているのか分からない。
どこまで踏み込んでよいのか分からない。
このような不安から、主任・リーダーが部下に踏み込めなくなります。
その結果、必要な指導が先送りされます。
小さな問題が大きくなります。
まじめに働いている職員に負担がかかります。
現場の不公平感が強くなります。
部下との関わり方は、気合いだけでは身につきません。
主任・リーダーには、
部下の話を聞く力。
期待を伝える力。
改善点を伝える力。
感情的にならずに指導する力。
部下の成長課題を整理する力。
1on1や面談を進める力。
こうした力を学ぶ機会が必要です。
主任・リーダーが育たない理由5
現場業務が忙しすぎて、育成の時間がない
医療・福祉の現場では、人手不足が深刻です。
シフトを埋めるだけで精一杯。
急な欠勤対応がある。
記録や書類業務も多い。
利用者様・患者様への対応も待ったなし。
家族対応や会議もある。
この状況で、主任・リーダーに「部下を育ててほしい」と言っても、現実には時間が取れません。
結果として、主任・リーダーは現場業務に追われます。
部下の育成は後回し。
1on1も後回し。
業務改善も後回し。
問題が起きたときだけ対応する。
これでは、主任・リーダーは育ちません。
ここで大切なのは、主任・リーダーの努力不足と考えないことです。
本当に必要なのは、法人として、
主任・リーダーが育成に使う時間を確保すること
育成も業務の一部として位置づけること
現場を回す役割と、人を育てる役割を整理すること
です。
主任・リーダーに育成を期待するなら、育成できる環境を作る必要があります。
主任・リーダーが育たない理由6
評価される基準が曖昧になっている
主任・リーダーが育たない法人では、何をもって主任・リーダーを評価するのかが曖昧なことがあります。
現場を問題なく回していることなのか。
部下を育てていることなのか。
離職を防いでいることなのか。
改善提案を出していることなのか。
他職種と連携していることなのか。
法人の方針を現場に浸透させていることなのか。
ここが曖昧だと、主任・リーダーは何を頑張ればよいのか分かりません。
また、主任・リーダーになることで責任は増えたのに、評価や処遇に十分反映されない場合もあります。
これでは、主任・リーダーになりたい人が増えません。
現場では、
「主任になっても大変なだけ」
「責任だけ増えて報われない」
「上と下に挟まれてつらそう」
「自分はなりたくない」
という空気が出てきます。
主任・リーダーを育てるには、役割だけでなく、評価と処遇も整える必要があります。
主任・リーダーとして何を期待するのか。
何ができるようになれば評価されるのか。
どのような成長段階があるのか。
処遇にどう反映するのか。
ここを見える化することが大切です。
主任・リーダーが育たない理由7
上司が主任・リーダーを支える仕組みがない
主任・リーダーは、現場と経営・管理職の間に立つ存在です。
部下からは不満や相談が上がってくる。
上司からは方針や数字、改善を求められる。
現場は人手不足で余裕がない。
自分もプレイヤーとして動かなければならない。
この立場は、想像以上に負荷がかかります。
それにもかかわらず、主任・リーダーが孤立している法人もあります。
困ったときに相談する場がない。
上司と定期的に振り返る機会がない。
部下指導で悩んでも、自分で抱えるしかない。
上からは「もっとしっかりして」と言われるだけ。
この状態では、主任・リーダーは潰れてしまいます。
主任・リーダーを育てるには、本人に任せるだけでは不十分です。
上司が定期的に1on1を行う。
現場で困っていることを聞く。
部下指導の進め方を一緒に考える。
判断に迷うケースを共有する。
主任・リーダー同士で学ぶ場を作る。
このような支援の仕組みが必要です。
主任・リーダーが育つ法人に必要なこと
主任・リーダーを育てるために必要なのは、根性論ではありません。
必要なのは、次の7つです。
- 主任・リーダーの役割を明確にする
- 責任と権限の範囲を整理する
- 部下との関わり方を学ぶ機会を作る
- 育成の時間を業務として確保する
- 評価・処遇と役割をつなげる
- 上司が主任・リーダーを支える仕組みを作る
- 法人の理念や方針を、現場の判断基準に落とし込む
主任・リーダーが育つと、組織は大きく変わります。
現場の小さな問題が早く見えるようになります。
職員が相談しやすくなります。
新人や若手の定着につながります。
施設長や経営者に判断が集中しにくくなります。
現場から改善提案が出やすくなります。
つまり、主任・リーダー育成は、単なる人材育成ではありません。
職員が自ら動く組織を作るための土台です。
私自身の経験から感じていること
私自身、社労士法人のNO.2として、5名規模から40名規模への拡大に関わってきました。
その中で、組織が大きくなるほど、経営者や一部の中心メンバーだけでは限界が来ることを実感しました。
最初は、自分で判断し、自分で動いた方が早い場面が多くあります。
しかし、それを続けると、周囲は確認待ちになります。
自分は忙しくなり、周囲は育ちにくくなります。
私自身も、良かれと思って細かく指示しすぎたことで、かえって周囲が自分で判断しにくくなってしまった経験があります。
また、社員からの提案に対して、現実的な判断を早く返しすぎて、意見が出にくい空気を作ってしまった反省もあります。
組織づくりでは、正しいことを言うだけでは人は育ちません。
役割を明確にし、判断基準を伝え、任せる範囲を決め、困ったときに支える。
この積み重ねが必要です。
主任・リーダーも同じです。
「主任なんだから、しっかりしてほしい」
「リーダーだから、自分で考えて動いてほしい」
そう求めるだけでは、育ちません。
法人側が、主任・リーダーが育つ土台を作る必要があります。
まとめ
医療・福祉法人で主任・リーダーが育たない理由は、本人の能力不足だけではありません。
多くの場合、次のような原因があります。
- 「仕事ができる人」をそのまま主任にしている
- 主任・リーダーの役割が明確になっていない
- 権限がないのに責任だけ負わされている
- 部下との関わり方を学ぶ機会がない
- 現場業務が忙しすぎて、育成の時間がない
- 評価される基準が曖昧になっている
- 上司が主任・リーダーを支える仕組みがない
主任・リーダーが育てば、現場は変わります。
経営者や施設長だけが頑張る組織から、
現場で考え、判断し、支え合える組織へ変わっていきます。
そのためには、主任・リーダー本人の努力だけに頼るのではなく、法人として、
役割
権限
育成
評価
対話
支援体制
を整えることが必要です。
当事務所では、医療・福祉法人を中心に、
社長・理事長・施設長の想いが現場に届き、職員が自ら動き出す人事制度・組織風土づくりを支援しています。
主任・リーダーが育たない。
現場が管理職任せになっている。
職員が自ら動く組織を作りたい。
そのように感じている方は、まずは自法人の組織課題を整理するところから始めてみてください。
