「昔は、飲みに行けば本音が聞けた」
この感覚を持っている管理職は多いです。
部下と飲みに行く。
愚痴を聞く。
仕事以外の話をする。
最後は「まあ頑張ろう」で締める。
それで関係性ができた時代もありました。
でも、今の職場でそれだけに頼るのは危険です。
飲み会に誘いにくい。
プライベートに踏み込みにくい。
ハラスメントも気になる。
若手は仕事と私生活を分けたがる。
ここで管理職がよく言います。
「最近の部下とは距離が縮まらない」
「本音を言ってこない」
「何を考えているかわからない」
違います。
部下が変わっただけではありません。
上司側の信頼関係づくりが、昔のやり方のまま止まっている。
ここが問題です。
厚生労働省の資料では、パワーハラスメントの一類型として「個の侵害」、つまり私的なことに過度に立ち入ることも示されています。勤務時間外の懇親の場であっても、職務との関連性や参加の任意性などによっては「職場」と判断される場合があるため、会社や管理職は飲み会を万能の関係性づくりの場と考えてはいけません。
信頼関係は、飲み会ではなく日常業務で作ります。
もっと言えば、信頼は「仲良くなること」ではありません。
管理職に必要な信頼とは、部下がこう思える状態です。
「この上司は、普段から見ている」
「相談しても雑に扱われない」
「困った時に放置されない」
「言ったことを覚えている」
「厳しいことを言う時も、仕事のために言っている」
これがあるから、指導が通ります。
これがないまま指導すると、部下には攻撃に聞こえます。
厚生労働省の指針でも、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導は、職場におけるパワーハラスメントには該当しないと整理されています。つまり、管理職が恐れるべきなのは「指導そのもの」ではなく、日頃の関係性や事実確認を欠いたまま、必要性や相当性を外した指導をしてしまうことです。
勘違い1
信頼関係は、飲み会や雑談で作るものだと思っている
飲み会が全部悪いわけではありません。
雑談も大事です。
人となりを知る意味はあります。
でも、飲み会や雑談を信頼関係づくりの中心に置くと、ズレます。
なぜか。
職場の信頼は、仕事の場面で崩れるからです。
相談したのに返事が遅い。
確認したのに放置される。
前に言ったことを覚えていない。
困っているのに気づかない。
ミスした時だけ急に厳しい。
こういう日常が続くと、飲み会でどれだけ楽しく話しても信頼は積まれません。
部下は見ています。
「この人は、仕事では頼れない」
「話は聞くけど、動いてくれない」
「結局、都合が悪くなると逃げる」
こう思われたら終わりです。
信頼は、酒の席の盛り上がりではありません。
勤務時間内の行動履歴です。
勘違い2
部下が本音を言わないのは、部下の心が閉じているからだと思っている
これも違います。
部下は、誰にでも本音を言わないだけです。
特に、職場では慎重になります。
「これを言ったら評価が下がるかも」
「面倒なやつだと思われるかも」
「どうせ言っても変わらないかも」
「上司に話したら、逆に自分の責任にされるかも」
こう考えます。
だから、部下が本音を言わない時、上司はこう問い直す必要があります。
「本音を言えるだけの安全な接点を作ってきたか」
「相談された時、後回しにしていなかったか」
「否定から入っていなかったか」
「前回の相談に、ちゃんと対応したか」
本音を引き出す方法を探す前に、まず自分の対応履歴を見てください。
本音は、聞き出すものではありません。
言っても大丈夫だと判断された時に出るものです。
勘違い3
関係性づくりは、仕事とは別の“人間関係づくり”だと思っている
管理職が一番間違えやすいのはここです。
関係性づくりを、仕事の外に置いてしまう。
飲み会。
ランチ。
雑談。
レクリエーション。
懇親会。
もちろん、これらが役に立つ場面もあります。
でも、管理職にとって本当に重要な関係性づくりは、仕事の中にあります。
部下の業務量を見る。
優先順位を一緒に整理する。
期限を明確にする。
相談されたら返す。
約束を守る。
改善を確認する。
必要な指導から逃げない。
これです。
関係性づくりは、雰囲気づくりではありません。
部下が安心して仕事に向き合える状態を作る管理行為です。
だから、管理職の業務です。
「自分は雑談が苦手だから」
「部下と距離を縮めるのが苦手だから」
それは言い訳になりません。
飲み会が苦手でも、雑談が得意でなくても、信頼は作れます。
毎日、見る。
聞く。
返す。
覚える。
約束を守る。
これをやればいい。
部下は、上司の“日常の管理姿勢”を見ている
部下は、上司の言葉だけを聞いているわけではありません。
上司の行動を見ています。
忙しい時に逃げるか。
面倒な相談を後回しにするか。
自分に都合の悪い報告を嫌がるか。
ミスした部下だけを責めるか。
周囲に迷惑が出る前に動くか。
ここを見ています。
だから、飲み会で「何でも相談してくれ」と言っても、翌日に相談を放置すれば終わりです。
1on1で「困ったら言って」と言っても、チャットの返信が3日後なら終わりです。
会議で「報連相を大事にしよう」と言っても、上司自身が確認を怠れば終わりです。
部下は、きれいな言葉ではなく、日常の実績を信用します。
ハラスメント防止の観点でも、会社には相談体制の整備、相談後の迅速かつ正確な事実確認、適正な対処、再発防止などの措置が求められています。制度としての相談窓口も必要ですが、現場の日常管理が崩れていれば、問題は相談窓口に流れ込む前に職場内で膨らみます。
私も昔、忙しさを理由にレスポンスが遅いことを、仕事ができる人の振る舞いだと勘違いしていました。
すぐ返さない。
まとめて返す。
重要なことだけ反応する。
自分では、優先順位をつけているつもりでした。
でも、相手から見れば違います。
「軽く見られている」
「どうせ返ってこない」
「相談するだけ無駄」
「この人には早めに言わない方がいい」
こうなります。
そして、こちらが必要な場面で厳しいことを言っても、相手は受け止めません。
普段の小さな不信が、指導の場面で一気に噴き出すからです。
レスポンスは、ただの事務処理ではありません。
関係性のメッセージです。
早く返す。
すぐ答えられないなら、いつ返すか伝える。
前回の話を覚えておく。
これだけで、信頼の積まれ方は変わります。
信頼関係は、指導を受け止める土台です。
厳しい指導が必要な場面は、必ずあります。
期限を守らない。
報告が遅い。
確認不足で顧客に迷惑をかける。
周囲に負担をかける。
同じミスを繰り返す。
これを放置してはいけません。
必要な指導をしないことは、本人の成長を止めます。
周囲のまじめな社員の不満も増やします。
職場秩序も崩れます。
ただし、厳しい指導は、信頼関係の上で行うから届きます。
信頼がある上司の言葉は、こう受け取られます。
「今回は直さないといけない」
「この人は普段から見てくれている」
「責めたいのではなく、改善させたいんだ」
信頼がない上司の言葉は、こう受け取られます。
「急に何なんだ」
「自分の責任を押しつけている」
「普段は放置なのに、ミスした時だけ言ってくる」
同じ言葉でも、届き方が変わります。
だから、叱り方だけを学んでも足りません。
叱る前に、信頼を積む。
これが先です。
信頼関係を作る日常習慣5つ
1. 朝の30秒で状態を見る
部下全員と長く話す必要はありません。
まず見る。
表情。
返事の速さ。
机やチャットの乱れ。
周囲との会話量。
いつもとの違い。
声かけは短くていい。
「今日、詰まっていることある?」
「午前中に確認しておくことある?」
「昨日の件、進められそう?」
これだけで十分です。
大事なのは、問題が大きくなる前に気づくことです。
2. 相談されたら、すぐ答えられなくても反応する
管理職がやりがちな失敗は、完璧に答えられるまで返さないことです。
これでは遅い。
部下は、正解だけを待っているわけではありません。
「受け取った」とわかるだけでも安心します。
返し方は、これでいい。
「確認する。15時までに返す」
「今は判断できない。明日の午前に整理して返す」
「先に結論だけ言うと、方向性はそれでいい」
短くていい。
早く返す。
これが信頼になります。
3. 前回の話を必ず1つ覚えておく
部下は、上司が自分の話を覚えているかを見ています。
「前に言っていた顧客対応、どうなった?」
「先週の資料作成、詰まりは解消した?」
「前回、報告を早めると言っていたけど、やってみてどうだった?」
これを言われると、部下は感じます。
「見てくれている」
逆に、毎回ゼロから聞く上司は信用されません。
「この人、何も覚えていない」
「話しても積み上がらない」
こう思われます。
4. 仕事の期待値を言葉にする
部下との関係が悪くなる原因の多くは、期待値のズレです。
上司は「当然わかっているだろう」と思っている。
部下は「そこまで求められているとは思わなかった」と感じている。
このズレが、後から火種になります。
だから、先に言う。
「この仕事は、金曜17時までに一次案が必要」
「顧客に出す前に、必ず私が確認する」
「遅れそうなら、期限当日ではなく前日の午前中に言って」
「この案件は、スピードより正確性を優先する」
期待値を明確にすれば、後の指導は感情論になりません。
事実に基づいて話せます。
5. 改善したら、その日のうちに言う
注意だけする上司は多いです。
でも、改善を見た時に声をかける上司は少ない。
ここで差が出ます。
「前回より報告が早かった」
「確認の仕方が良くなった」
「今日の説明は整理されていた」
「先に相談したのは良かった」
これを言ってください。
大げさに褒める必要はありません。
事実を短く言えばいい。
改善を見ている上司の指導は、次も届きます。
注意だけして、改善に無反応な上司の指導は、だんだん届かなくなります。
まとめ
信頼関係は、飲み会で作るものではありません。
飲み会が悪いのではありません。
飲み会に頼るのが古いのです。
今の管理職に必要なのは、勤務時間内に信頼を積む力です。
声をかける。
確認する。
返す。
覚える。
約束を守る。
改善を見逃さない。
必要な指導から逃げない。
これを日常に落とし込む。
部下は、上司の言葉より行動を見ています。
「何でも相談してくれ」と言う上司より、相談に早く反応する上司を信頼します。
「期待している」と言う上司より、期待値を具体的に伝える上司を信頼します。
「君のためだ」と言う上司より、改善まで一緒に見届ける上司を信頼します。
信頼は、イベントではありません。
日常の履歴です。
今日から、部下ごとに次の3つをメモしてください。
- 前回、その部下と話した仕事の内容
- 今、詰まっていそうなこと
- 次に確認する約束
これが書けないなら、まだ信頼関係づくりは始まっていません。
飲みに誘う前に、勤務時間内にやることがあります。
見る。
聞く。
返す。
覚える。
約束を守る。
これをやってください。
厳しい指導が届くかどうかは、その後です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
メモは必ず会社ではなく、家に帰ってから書いてくださいね。
