応募者に本音を話してほしいなら、まず面接官が自分を開く必要がある。
これは精神論ではない。
面接の構造の問題である。
多くの会社は、応募者には徹底的に開示を求める。
履歴書を出させる。
職務経歴を説明させる。
退職理由を聞く。
志望動機を聞く。
強みも弱みも聞く。
将来どうなりたいかまで聞く。
ところが、面接官はどうか。
「本日面接を担当します、人事の〇〇です。よろしくお願いします」
これで終わる。
これでは不公平だ。
応募者だけが丸裸にされ、面接官は安全地帯から評価している。
この構図のまま、「本音で話してください」と言っても無理がある。
ファン化面接講座でも、面接官の自己紹介は重要なステップとして扱われている。応募者が履歴から内面まで開示しているのに、面接する側が名前すら十分に言わないのは不公平であり、相互理解によってミスマッチを防ぐためにも、面接官側もしっかり自己開示すべきだと整理されている。
面接官の自己紹介は、ただの挨拶ではない。
応募者の本音を引き出すための土台である。
中小企業の面接で、よくある場面がある。
応募者が緊張した顔で座っている。
面接官は履歴書に目を落としたまま、淡々と質問を始める。
「では、これまでの経歴を説明してください」
「なぜ前職を辞めたのですか」
「当社を志望した理由は何ですか」
応募者は、用意してきた無難な答えを話す。
面接官は、「深掘りできなかった」「本音が見えなかった」と感じる。
だが、本音が見えなかった原因は、応募者だけにあるのではない。
面接官が、自分を一切見せていないからだ。
人は、相手が何者かわからない状態で、深い話をしない。
まして面接は、評価される場である。
応募者は、失点しないように話す。
突っ込まれそうなことは避ける。
きれいな言葉でまとめる。
それを見て、「この人は本音を話さない」と判断するのは早い。
会社側が、本音を話せる関係性をつくっていない。
勘違い1 面接官の自己紹介は短いほうがよい
これは違う。
もちろん、面接官が自分の話ばかりして、応募者の時間を奪うのはよくない。
しかし、自己紹介を名前と役職だけで終わらせるのは、あまりに雑だ。
応募者は、面接官を見ている。
この人はどんな経歴の人なのか。
なぜこの会社で働いているのか。
仕事に何を大切にしているのか。
この会社を本当に良いと思っているのか。
自分の話を受け止めてくれる人なのか。
ここが見えないと、応募者は警戒を解かない。
ファン化面接では、面接官の自己紹介に6つの要素を入れる。
氏名・役職、在籍年数、前職経歴、入社動機、現在の役割、仕事への想いである。
この6つを話すと、応募者は面接官を「評価する人」ではなく、「一人の働く人」として見始める。
たとえば、こういう自己紹介だ。
「私は人事課長の鈴木と申します。入社して7年目になります。前職では機械メーカーで営業をしていました。正直、最初から人事をやりたかったわけではありません。社長と出会って、ものづくりを支える人を大切にしたいという考え方に惹かれて、この会社に入りました。今は、同じ方向を向いて働ける仲間を増やすことが自分の役割だと思っています。今日は、鈴木さんのこれまでの経験だけでなく、これからどんな働き方をしたいのかもお聞きしたいと思っています」
これを聞いた応募者は、少し話しやすくなる。
面接官が何を大切にしているかが見えるからだ。
自己紹介は、長さの問題ではない。
中身の問題である。
勘違い2 面接官が熱く語ると、応募者に引かれる
これも違う。
応募者が引くのは、熱量そのものではない。
中身のない自慢話や、押しつけがましい説教である。
面接官が、自分の仕事への想いや会社への関わりを自分の言葉で語ることは、むしろ必要だ。
ファン化面接講座では、面接官が自己開示し、エネルギッシュに語ることが全スキルの土台だとされている。応募者は、面接官が本気で語る姿を見て、初めて本音を開いてくれる。
ここを勘違いしている会社が多い。
「面接官は中立でなければならない」
「余計な話をしないほうがよい」
「会社説明は淡々としたほうがよい」
たしかに、冷静な判断は必要だ。
だが、冷静さと無機質は違う。
面接官が無表情で、会社の魅力も語らず、ただ質問だけをする。
その面接で、応募者が「この会社で働きたい」と感じることは少ない。
特に中小企業は、知名度や待遇だけで大企業に勝てない場面がある。
だからこそ、面接官の言葉が重要になる。
「うちは有名企業ではありません。でも、この地域でこういうお客様を支えてきました」
「この仕事は正直、楽ではありません。ただ、ここにやりがいがあります」
「私自身、この会社で働いていて一番よかったと思うのは、この部分です」
こういう言葉は、応募者に残る。
熱く語るとは、大げさに話すことではない。
自分の言葉で、本気度を伝えることだ。
勘違い3 面接官は評価する立場だから、自分の弱さを見せてはいけない
これは危ない。
面接官が完璧な人間を演じると、応募者も完璧な応募者を演じる。
すると、面接は「本音の確認」ではなく「演技の見せ合い」になる。
面接官が話すべきなのは、成功体験だけではない。
迷ったこと、悩んだこと、仕事観が変わった経験も、必要に応じて話してよい。
もちろん、愚痴や不満を話すのは違う。
会社の内部事情を不用意に話すのも違う。
だが、人としての経験を開示することは、応募者との距離を縮める。
私自身も、昔はここを間違えていた。
自信のなさを隠すために、言葉や文書でマウントを取るような言動をしていた。
難しい言葉を使う。
正論で固める。
相手より上に立とうとする。
そのときの私は、「ちゃんと説明している」と思っていた。
しかし、相手からすれば、話しにくい人だった。
本音を言うと責められそうな人だった。
面接官も同じだ。
自信のない面接官ほど、上から目線になる。
見抜かなければと力むほど、詰問になる。
弱さを見せまいとするほど、応募者との距離が開く。
応募者の本音を聞きたいなら、面接官はまず「評価者の鎧」を少し脱ぐ必要がある。
ただし、注意点もある。
自己開示は、面接官の悩み相談ではない。
応募者に気を遣わせる話は不要だ。
あくまで、応募者が安心して話せる関係性をつくるための自己開示である。
面接官の自己紹介で大事なのは、きれいな経歴ではない。
「なぜ今、この会社でこの役割をしているのか」が伝わることだ。
応募者は、面接官の肩書きよりも、言葉の温度を見ている。
「この人は、本当にこの会社を大切に思っているのか」
「この人は、人を採ることに責任を持っているのか」
「この人となら、入社後も話せそうか」
ここが伝わると、応募者の話し方が変わる。
最初は短い答えだった応募者が、少しずつ具体的に話し始める。
転職理由の奥にある価値観が見えてくる。
将来どう働きたいかが出てくる。
会社に対する不安も質問として出てくる。
これは、面接官がうまく誘導したからではない。
面接官が先に開いたから、応募者も開いたのである。
自己紹介が弱い会社は、会社の魅力も伝えられない
面接官の自己紹介が弱い会社には、共通点がある。
会社の魅力を、自分の言葉で語れない。
社長の想いを、応募者に伝わる言葉にできない。
なぜ採用するのかを、具体的に説明できない。
入社後に何を期待しているのかが曖昧。
面接官自身が、会社の価値観を腹落ちしていない。
この状態で、応募者を口説くことはできない。
会社説明の資料が立派でも、面接官の言葉が薄ければ伝わらない。
ホームページに理念が載っていても、面接官が語れなければ意味がない。
応募者は、文章ではなく人を見ている。
中小企業にとって、面接官は採用広報そのものだ。
求人票よりも、面接官の一言のほうが応募者に残ることがある。
だから、面接官の自己紹介を個人任せにしてはいけない。
会社として準備すべきである。
社長なら、創業の想いや今後の方向性を語る。
管理職なら、現場で大切にしていることを語る。
人事担当者なら、どんな仲間を迎えたいのかを語る。
それぞれの立場で、言葉を持つ必要がある。
面接官自己紹介の6要素
自己紹介は、思いつきで話すものではない。
型を持つと、誰でも一定の質まで引き上げられる。
基本は、次の6要素である。
氏名・役職。
在籍年数。
前職経歴。
入社動機。
現在の役割。
仕事や採用への想い。
この順番で話すと、応募者に伝わりやすい。
たとえば、製造業の管理職ならこうなる。
「本日面接を担当します、製造部長の山本です。入社して15年になります。前職も製造業でしたが、当時は自分の作業だけをこなす働き方をしていました。この会社に入ってから、若い社員を育てることや、現場全体で品質を守ることの大切さを学びました。今は、技術を次の世代に引き継ぐことが自分の役割だと思っています。今日の面接では、山田さんがこれまで何を大切に働いてきたのか、そしてこれからどんな技術者になりたいのかを聞かせていただきたいです」
これだけで、面接の空気は変わる。
応募者は、目の前の面接官がどんな人かを理解する。
そして、自分も少し本音を話してよいと感じる。
自己紹介は、応募者に安心材料を渡す時間である。
自己紹介でやってはいけないこと
一方で、自己紹介には失敗例もある。
まず、自慢話になってはいけない。
「私はこれまで大きなプロジェクトをいくつも成功させてきました」
「社内ではかなり厳しいほうだと言われています」
「うちについてこられる人だけ来てほしいと思っています」
これでは、応募者は身構える。
次に、内輪話に寄りすぎてもいけない。
「うちの社長は変わってましてね」
「現場はけっこう大変で、みんな苦労しています」
「正直、人が足りなくて困っているんです」
率直さは必要だが、応募者を不安にさせるだけの話は避けるべきだ。
また、自信のなさをそのまま出すのも違う。
「私も面接は慣れていないので」
「急に面接を任されまして」
「うまく説明できるかわかりませんが」
これは応募者への配慮ではない。
面接官側の逃げである。
応募者は人生がかかった場として面接に来ている。
その相手に、「慣れていないので」と言うのは失礼だ。
自己開示と自己卑下は違う。
率直さと無責任は違う。
面接官は、自分の言葉で語る。
しかし、場の責任は手放さない。
自己紹介は、ロールプレイで磨く
自己紹介は、紙に書いただけでは使えない。
声に出して、初めて課題が見える。
言葉が硬い。
長すぎる。
棒読みになる。
想いの部分が薄い。
応募者に向けた言葉になっていない。
会社の理念と自分の経験がつながっていない。
これらは、実際に話してみないとわからない。
ファン化面接講座でも、6要素フレームワークを使って面接官自己紹介を組み立て、実際に声に出して語るロールプレイが設定されている。観察ポイントとして、6要素が含まれているか、熱さやエネルギーがあるか、具体性があるか、時間配分が適切かが示されている。
面接官教育で大事なのは、知識を教えることではない。
実際に話させることだ。
社長も、管理職も、人事担当者も、一度は自分の自己紹介を録音して聞いたほうがいい。
思っている以上に、伝わっていない。
思っている以上に、温度が低い。
思っている以上に、応募者目線になっていない。
ここに気づける会社は強い。
面接は、準備した会社が勝つ。
自己流で乗り切る会社は、応募者に見抜かれる。
自己開示すると、見極めも鋭くなる
面接官が自己開示すると、応募者を口説きやすくなるだけではない。
見極めもしやすくなる。
面接官が会社の価値観を語る。
仕事で大切にしていることを語る。
入社後に期待する姿を語る。
すると、応募者の反応が見える。
共感しているのか。
表面的に合わせているだけなのか。
質問が出るのか。
自分の経験と結びつけて話せるのか。
価値観が合いそうか、ズレていそうか。
これは、応募者に質問を投げるだけでは見えにくい。
面接官が自社の価値観を開示するから、応募者の価値観との接点やズレが浮かび上がる。
つまり、自己開示はファン化のためだけではない。
ミスマッチを防ぐためにも必要だ。
「会社に合わせてくれる人」を採るのではない。
「会社の価値観を理解し、そのうえで自分の意思で選ぶ人」を採る。
そのためには、会社側が先に価値観を言葉にする必要がある。
面接官が変われば、応募者の反応は変わる
面接官が自己紹介を変えるだけで、応募者の表情が変わることがある。
最初は硬かった表情がやわらぐ。
うなずきが増える。
逆質問が出る。
転職理由を少し深く話してくれる。
将来の不安も言葉にしてくれる。
これを見て、面接官は初めて気づく。
「今まで応募者が話さなかったのではなく、自分が話せない空気をつくっていたのかもしれない」
この気づきが大事だ。
採用の問題は、応募者だけの問題ではない。
会社の仕組み、面接官の姿勢、関係性のつくり方が、応募者の反応をつくっている。
面接官が変われば、面接の質が変わる。
面接の質が変われば、内定承諾率も定着率も変わる可能性がある。
まず作るべきは、面接官自己紹介シナリオ
次の面接までに、まず作るべきものは一つだ。
面接官自己紹介シナリオである。
難しく考えなくていい。
次の問いに答えればよい。
自分は誰か。
この会社で何年働いているか。
前職やこれまでの経験は何か。
なぜこの会社に入ったのか。
今、どんな役割を担っているのか。
今回の採用にどんな想いを持っているのか。
これを、応募者に伝わる話し言葉にする。
大切なのは、きれいにまとめることではない。
自分の言葉にすることだ。
借り物の理念では、応募者に届かない。
ホームページの文章を読み上げても、応募者の心は動かない。
面接官自身の経験と、会社の価値観がつながった言葉だから伝わる。
面接官の自己紹介を変えることは、小さな改善に見える。
しかし、面接全体の空気を変える入口になる。
まとめ
応募者に本音を話してほしいなら、面接官が先に自己開示する必要がある。
応募者だけに経歴、退職理由、志望動機、将来像を話させ、面接官は名前と役職だけで終わる。
これでは相互理解にならない。
面接官の自己紹介は、ただの挨拶ではない。
応募者の警戒を解き、会社の価値観を伝え、本音の対話を始めるための土台である。
自己紹介に必要なのは、氏名・役職、在籍年数、前職経歴、入社動機、現在の役割、仕事への想い。
この6要素を、自分の言葉で語ることだ。
採用面接を変えたいなら、まず面接官が変わる。
面接官が開かない会社に、応募者は本音を出さない。

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