同じことを言っているのに、部下に受け入れられる上司と、反発される上司がいます。
たとえば、部下の報告が遅れた場面。
ある上司が言うと、部下はこう返します。
「すみません。次から先に共有します」
別の上司が言うと、部下は顔をこわばらせます。
「別にサボっていたわけじゃありません」
「今、それを言われても困ります」
「だったら最初から言ってください」
この差は、言葉の丁寧さだけではありません。
もちろん、人格否定や大声、見せしめの叱責は論外です。
パワーハラスメントは、職場における優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境が害されるものと整理されています。
ただし、ここを勘違いしてはいけません。
厚生労働省の指針では、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しないとされています。
つまり、上司は必要な指導から逃げてはいけない。
問題は、こうです。
あなたの指導は、部下が受け止められる関係性の上に乗っているか。
ここです。
部下が厳しい指導を受け入れる上司は、叱る直前に頑張っているわけではありません。
普段から3分を使っています。
朝、部下の表情を見る。
案件の詰まりを聞く。
前回の約束を覚えている。
小さな改善を言葉にする。
困る前に声をかける。
この3分があるから、厳しい言葉も届きます。
逆に、普段は何も見ていない。
相談されても「あとで」と流す。
部下の仕事量も知らない。
でも、ミスした瞬間だけ呼び出す。
それでは、部下は指導として受け取りません。
「怒られた」
「詰められた」
「責任を押しつけられた」
こう受け取ります。
管理職が怖がるべきなのは、厳しいことを言うことではありません。
普段の関係性がないまま、急に厳しいことを言うことです。
勘違い1
言い方を柔らかくすれば大丈夫
これは半分だけ正しいです。
たしかに、言い方は大事です。
「何回言ったらわかるんだ」
「だからお前はダメなんだ」
「やる気あるのか」
これは指導ではありません。
人格攻撃です。
でも、言い方だけを整えても足りません。
たとえば、普段ほとんど話さない上司が、急に個室に呼んでこう言ったとします。
「責めたいわけではないんだけど、報告が遅れているよね」
「今後はもう少し早めに共有してくれるかな」
言葉だけ見れば、穏やかです。
でも、部下の腹の中はこうです。
「普段、何も聞いてこないくせに」
「こっちが困っていた時は放置したくせに」
「結局、ミスが見えた時だけ言うんだ」
言葉は丁寧。
でも、関係性が薄い。
この状態では、指導は届きません。
厳しい指導が受け入れられるかどうかは、セリフの問題ではない。
日頃の信用残高の問題です。
勘違い2
関係性づくりは時間がある時にやるもの
これも違います。
関係性づくりを、飲み会や長い面談だと思っている上司がいます。
違います。
管理職に必要な関係性づくりは、仲良しになることではありません。
仕事上の信頼を積み上げることです。
それは、毎日の短い接点で作れます。
「昨日の顧客対応、どうなった?」
「今週、詰まりそうな仕事はある?」
「この案件、優先順位で迷っていない?」
「前に話していた件、進んだ?」
これで十分です。
時間は3分でいい。
ただし、毎日やる。
少なくとも週に数回はやる。
管理職が「忙しいから」と言ってこの3分を削ると、後で30分、1時間、半日を失います。
トラブル対応。
退職面談。
メンタル不調のフォロー。
周囲の不満処理。
ハラスメント相談への対応。
最初の3分を惜しんだ結果、あとで胃が重くなるような対応に追われます。
勘違い3
反発する部下が悪い
もちろん、部下側に問題があるケースもあります。
注意されるとすぐ不機嫌になる。
自分のミスを認めない。
何でもハラスメントと言えば通ると思っている。
こういうケースでは、個別事情を確認しながら、会社として事実に基づいて対応する必要があります。
ハラスメント該当性や懲戒、配置転換、退職勧奨などは、個別事情の確認が必要です。
ただ、それでも管理職は一度、自分に問い直すべきです。
「この部下を、普段から見ていたか」
「困っている兆候に気づいていたか」
「期待する水準を事前に伝えていたか」
「ミスの前に、声をかける機会はなかったか」
ここを飛ばして、部下の素直さだけを責めるのは楽です。
でも、それでは管理職の仕事になりません。
部下の反発は、部下の性格だけで起きるわけではありません。
上司の無関心。
曖昧な指示。
後出しの注意。
忙しさを理由にした放置。
評価基準の不透明さ。
こうしたものが積もると、部下は指導を「改善の機会」ではなく「攻撃」と受け取ります。
部下は、指導内容だけを聞いているわけではありません。
部下は、上司の日頃の態度ごと聞いています。
普段から見てくれている上司に言われると、厳しくてもこう思えます。
「たしかに、今回は自分が甘かった」
「この人は普段から見てくれている」
「直せば、また任せてもらえる」
でも、普段から距離を取っている上司に言われると、こうなります。
「急に何なんですか」
「自分の管理不足をこっちに向けているだけでは」
「結局、上に怒られたから言っているんでしょ」
同じ指導でも、受け取られ方がまったく変わります。
だから、叱る技術だけを学んでも限界があります。
必要なのは、叱る前の設計です。
厚生労働省は、パワーハラスメント防止について、事業主に相談体制の整備や、相談後の適切な対応などを求めています。中小企業についても、令和4年4月1日からパワーハラスメント防止措置が義務化されています。
会社としてハラスメント対策をするなら、相談窓口を置くだけでは足りません。
現場の管理職が、日常の関係性を作れるようにする。
ここまでやらないと、制度は紙で終わります。
私も昔、忙しさを理由にレスポンスが遅いことを、「仕事ができる人」だと勘違いしていた時期があります。
すぐ返さない。
後回しにする。
まとめて返す。
自分では、重要な仕事を優先しているつもりでした。
でも、相手から見れば違います。
「軽く見られている」
「相談しにくい」
「どうせ返ってこない」
「この人には早めに共有しても意味がない」
こう思われます。
その状態で、こちらが急に厳しいことを言っても、相手は受け止めません。
普段の小さな不信が、指導の場面で一気に噴き出します。
管理職のレスポンスは、ただの事務処理ではありません。
関係性のメッセージです。
早く返す。
短くても返す。
すぐ答えられない時は、いつ返すか伝える。
これも、日常の3分です。
信頼関係は、気が合うかどうかではありません。
管理職が、部下に対して次のメッセージを日常的に出せているかです。
「あなたの仕事を見ている」
「困った時は早めに言っていい」
「期待する水準はここだ」
「できていない点は放置しない」
「改善したら、ちゃんと見ている」
これがある職場では、厳しい指導も通ります。
逆に、これがない職場では、どれだけ優しい言葉を使っても疑われます。
指導とは、瞬間芸ではありません。
日常の観察。
期待値の共有。
小さな声かけ。
事実に基づく確認。
改善後の承認。
この流れの中にあるものです。
日常の3分でやる5つの習慣
1. 朝か午前中に、部下の状態を見る
最初に見るのは、仕事の成果ではありません。
状態です。
表情が暗い。
いつもより反応が遅い。
机の上が荒れている。
チャットの返信が止まっている。
周囲との会話が減っている。
こういう変化を見ます。
声かけは短くていい。
「今日、少し詰まってる?」
「急ぎの確認ある?」
「午後、5分だけ状況聞くね」
これだけで、部下は見られていると感じます。
2. 仕事の期待値を先に言う
後から叱る上司ほど、先に期待値を伝えていません。
「ちゃんとやって」
「早めに報告して」
「責任を持って」
これでは曖昧です。
言うなら、こうです。
「この案件は、毎日17時に進捗を共有して」
「顧客回答の前に、必ず私に確認して」
「納期に遅れそうなら、前日の午前中までに言って」
期待値が明確なら、指導は事実確認になります。
期待値が曖昧だと、指導は感情論になります。
3. 注意の前に、必ず一度聞く
いきなり注意しない。
まず聞きます。
「何が起きていた?」
「どこで止まった?」
「誰に確認した?」
「自分では、原因をどう見ている?」
これを聞かずに叱ると、上司の決めつけになります。
もちろん、聞いたからといって甘くする必要はありません。
聞いたうえで、必要なら厳しく言う。
「事情はわかった。ただ、この報告遅れはチーム全体に影響している」
「次からは、止まった時点で共有してほしい」
「ここは業務上必要なルールだから、守ってもらう」
事実確認と指導は、セットです。
4. 小さな改善をその日に言葉にする
叱る上司は多い。
改善を見ている上司は少ない。
これが問題です。
部下が少し早く報告した。
確認の仕方が良くなった。
前回より準備して会議に来た。
自分から相談してきた。
その場で言います。
「今の報告、早くて助かった」
「前回より整理されていた」
「事前に相談したのは良かった」
「その動きは続けてほしい」
これを言わないと、部下は「直しても見られていない」と感じます。
指導は、注意して終わりではありません。
改善を見届けて終わりです。
5. 約束を覚えておく
これが一番効きます。
前回、部下がこう言った。
「来週までに整理します」
「次は事前に相談します」
「この部分を確認しておきます」
上司が次に会った時、こう聞く。
「前に話していた件、どうなった?」
「相談すると言っていた件、進んだ?」
「先週決めたやり方でやってみてどうだった?」
部下はここで感じます。
「あ、覚えていたんだ」
この瞬間に、信頼が積まれます。
逆に、上司が忘れていたらどうなるか。
「どうせこの人、言っただけだな」
こうなります。
管理職の信頼は、大きな言葉では作れません。
前回の約束を覚えているかで決まります。
まとめ
部下が厳しい指導を受け入れる上司と、反発される上司。
差は、叱る時の声のトーンだけではありません。
差は、日常の3分に出ます。
見ているか。
聞いているか。
期待値を伝えているか。
改善を認めているか。
約束を覚えているか。
これをやらずに、叱る場面だけ整えても無理です。
普段は無関心。
ミスした時だけ指導。
改善しても無反応。
これでは、部下は上司を信用しません。
ハラスメントを恐れる管理職ほど、叱り方の前に日常を見直してください。
厳しいことを言える上司は、怖い上司ではありません。
普段から逃げていない上司です。
今日から、部下1人につき3分だけ使ってください。
聞くことは、この3つで十分です。
- 今、詰まっている仕事はあるか
- 優先順位で迷っていることはあるか
- 前回決めたことは進んでいるか
この3分を続けてください。
叱る時だけ上司になるな。
普段から上司でいてください。
それが、ハラスメントを防ぎながら、必要な指導を通す一番現実的な方法です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
あなたは部下一人に3分使ってますか?
