成長支援会議が必要な本当の理由
社員が辞める。
そのとき、多くの会社はこう言います。
「給与の問題だった」
「本人の家庭事情だから仕方ない」
「キャリアアップしたいなら止められない」
「最近の若い人はすぐ辞める」
耳ざわりは悪くありません。
会社が傷つかずに済む言い訳だからです。
でも、現場を見ていると分かります。
本当に怖いのは、退職届が出たことではありません。
その人が辞める前に、会社が何も気づいていなかったことです。
「最近、元気がなかった」
「仕事に飽きていた」
「上司への不信感があった」
「本当は別の仕事に挑戦したかった」
「家庭の事情で働き方に悩んでいた」
「評価されていないと感じていた」
退職後に、こういう話がポロポロ出てくる会社があります。
遅いです。
それは退職理由ではありません。
会社が見落としていた情報です。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、常用労働者の入職率は14.8%、離職率は14.2%です。人の出入りは、どの会社にも起きる前提で経営を考える必要があります。
つまり、退職は「たまたま起きた事故」ではありません。
会社が継続的に向き合うべき経営課題です。
そこで必要になるのが、成長支援会議です。
成長支援会議とは、経営計画や業務進捗ではなく、人財に関して徹底的に話し合う会議です。
目的は、社員を管理することではありません。
社員一人ひとりの強み、希望、不満、成長課題、会社として期待する役割を経営と管理職が共有し、具体的な支援と機会提供につなげることです。
そして同時に、管理職の部下把握力を鍛える場でもあります。
結論:人が辞める会社は、社員を見ていない
先に結論を言います。
人が辞める会社は、社員を見ていません。
正確に言えば、見ているつもりになっています。
勤怠は見ている。
売上は見ている。
ミスは見ている。
評価シートも見ている。
でも、その人が今の仕事に何を感じているか。
何にやりがいを持っているか。
何に不満を持っているか。
数年後どうなりたいのか。
家庭や生活環境で無理が出ていないか。
会社として次にどんな機会を渡すべきか。
ここを見ていない会社が多い。
そして退職届が出た瞬間に、慌てて面談します。
「何が不満だったの?」
「もっと早く言ってくれればよかったのに」
「条件を見直すから残ってくれないか」
この言葉を言われた社員は、たいてい冷めています。
なぜなら、本人の中ではもう答えが出ているからです。
退職届は相談ではありません。結論です。
成長支援会議は、この“手遅れ面談”を減らすためにあります。
勘違い1:退職理由を聞けば、退職防止ができる
退職面談を一生懸命やる会社があります。
もちろん、やらないよりは良いです。
でも、退職面談だけで退職防止はできません。
理由は簡単です。
辞めると決めた人は、本音を全部言わないからです。
「一身上の都合です」
「家庭の事情です」
「新しいことに挑戦したいです」
こう言われたら、会社はそれ以上踏み込みにくい。
本人も、最後に揉めたくない。
上司との関係が悪ければ、なおさら本当のことは言いません。
だから退職理由を聞いても、会社にとって都合のいい情報しか残らないことが多い。
本当に必要なのは、辞める前の情報です。
今の仕事への満足度。
将来の希望。
強みと育成ポイント。
上司が支援すべきこと。
会社が提供できる機会。
期待したい役割。
成長支援会議では、こうした情報を事前に集め、上司だけで抱え込まず、経営・役員・管理職で議論します。
退職理由を聞く会社では遅い。
退職の前兆を把握する会社が、人を残せます。
勘違い2:社員のことは、直属の上司が一番分かっている
これも危険な思い込みです。
もちろん、直属の上司が一番近くで見ています。
でも、一番近くで見ていることと、一番正しく把握していることは違います。
上司にも癖があります。
数字を出す部下だけを評価する上司。
自分に従順な部下を「優秀」と見る上司。
口数が少ない部下を「やる気がない」と決めつける上司。
相談してこない部下を「問題なし」と判断する上司。
自分が苦手なタイプの部下を、低く見積もる上司。
これは珍しい話ではありません。
現場では普通に起きています。
私自身も、昔は似たような失敗をしています。
責任を負わされるのが怖くて、相手から突っ込まれる前に攻撃的な反応をして、場の雰囲気を壊したことがあります。
自信のなさを隠すために、言葉や文書でマウントを取るような言動をしていたこともあります。
その状態で、人を正しく見られるわけがありません。
上司の把握には、必ず偏りがあります。
だからこそ、複数の目で見る必要があります。
成長支援会議では、上司が部下について説明します。
そして、他の参加者から質問されます。
「それは本人に確認したのか」
「なぜそう判断したのか」
「強みは具体的にどの成果に出ているのか」
「本人は将来どうなりたいと言っているのか」
「会社として次にどんな機会を渡すのか」
ここで上司の把握不足が見えます。
少し厳しい言い方をします。
部下について3分も具体的に語れない管理職は、管理職として危ない。
名前、役職、業務内容は言える。
でも、本人の希望、強み、つまずき、支援ポイント、次の成長機会を語れない。
それで「マネジメントしている」とは言えません。
成長支援会議は、社員のためだけの会議ではありません。
管理職の把握力を丸裸にする会議です。
勘違い3:忙しいから、人について話し合う時間がない
これが一番多い言い訳です。
「そんな会議をやっている時間がない」
「現場が忙しい」
「人の話を一人30分もするのは重い」
「管理職を集めるだけで大変」
気持ちは分かります。
でも、厳しく言います。
人について話し合う時間を惜しむ会社ほど、退職後にもっと大きな時間を失います。
社員が辞めたら、採用が必要になります。
求人を出す。
応募者を見る。
面接する。
入社手続きをする。
備品を準備する。
引き継ぎをする。
教育する。
慣れるまでフォローする。
その間、現場の誰かが穴を埋めます。
残業が増えます。
不満が増えます。
場合によっては、連鎖退職が起きます。
人について話す30分をケチって、採用と育成に何十時間も使う。
これが多くの会社で起きています。
しかも採用市場は、会社にとって都合よく動いてくれません。
欠員が出たからといって、すぐに同じレベルの人が採れるとは限らない。
「忙しいからできない」のではありません。
人の話を後回しにしているから、いつまでも忙しいのです。
退職前の把握不足は、会社の管理能力の問題
もちろん、すべての退職を防ぐことはできません。
結婚、介護、転居、病気、本人のキャリア選択。
会社がどうにもできない事情もあります。
ただし、全部を「本人都合」で片づける会社は伸びません。
退職には、会社が変えられる要素と、変えられない要素があります。
成長支援会議で見るべきは、会社が変えられる要素です。
たとえば、こういうものです。
「仕事が固定化して成長感がない」
「上司から期待されている実感がない」
「評価の理由が分からない」
「自分の強みが活かされていない」
「将来の役割が見えない」
「相談しても動いてくれない」
「できる人に仕事が偏っている」
「管理職になれと言われるが、支援がない」
これらは、本人だけの問題ではありません。
仕組み、関係性、管理職の姿勢、会社の曖昧さがつくっています。
人の問題は、本人だけの問題ではありません。
仕組み、関係性、管理職の姿勢、会社の曖昧さがつくっています。
成長支援会議は、この曖昧さをなくすための場です。
「あの社員はどうなのか」ではなく、
「会社はあの社員をどう見ているのか」
「上司は何を把握しているのか」
「次にどんな機会を渡すのか」
「誰がどう支援するのか」
「何を本人にフィードバックするのか」
ここまで決める。
これをやらずに「人が育たない」と言うのは、順番が逆です。
成長支援会議で最初に見るべき5つの情報
成長支援会議では、最低でも次の5つを見ます。
1. 本人の現在の仕事への満足度
今の仕事に何を感じているのか。
飽きているのか。
燃えているのか。
不満があるのか。
ここを聞かずに定着支援はできません。
2. 本人の将来希望
専門職として深めたいのか。
管理職を目指したいのか。
別業務に挑戦したいのか。
本人も迷っている場合があります。
その迷いも含めて把握します。
3. 強みと育成ポイント
成果、能力、貢献度、チームワーク、周囲への影響。
感覚ではなく、具体的な行動で見ます。
「真面目」だけでは足りません。
何を、どの場面で、どう発揮しているのかまで見る必要があります。
4. 上司の支援ポイント
「頑張ってほしい」では支援になりません。
何を教えるのか。
何を任せるのか。
どの場面でフォローするのか。
ここまで具体化します。
5. 提供する機会
人は説教だけでは育ちません。
機会で育ちます。
新しい業務。
配置転換。
プロジェクト参加。
後輩育成。
改善活動。
部署横断の役割。
会社がどんな経験を渡すかが重要です。
この5つを、上司だけでなく、経営と管理職が共有する。
ここから会社の人財育成は変わります。
成長支援会議は、優しい会議ではない
誤解しないでください。
成長支援会議は、社員に優しくするためだけの会議ではありません。
耳の痛いことも扱います。
本人の課題も見る。
上司の把握不足も見る。
会社の機会提供不足も見る。
経営の期待の曖昧さも見る。
つまり、逃げ場がありません。
だから効果があります。
人財育成をきれいごとで終わらせる会社は、だいたいこう言います。
「社員の自主性を尊重しています」
「本人の成長意欲に任せています」
「上司には日頃からコミュニケーションを取るように言っています」
これだけでは弱い。
自主性という言葉で放置していないか。
成長意欲という言葉で会社の支援不足をごまかしていないか。
コミュニケーションという言葉で、具体的な把握とフィードバックから逃げていないか。
ここを問うのが、成長支援会議です。
まとめ
人が辞める会社は、退職理由を聞く前に“把握不足”を疑うべきです。
退職届が出てから慌てても遅い。
社員の本音は、辞めると決める前に拾う必要があります。
成長支援会議は、社員を管理するための会議ではありません。
人財の強み、希望、不満、課題、期待役割を会社として把握し、支援と機会提供につなげる会議です。
古い常識は、こうです。
退職は本人の問題。
人事制度を入れれば人は育つ。
社員のことは直属の上司が分かっている。
忙しいから人について話す時間はない。
新しい見方は、こうです。
退職前の把握不足は、会社の管理能力の問題。
制度は道具であり、実践の場がなければ機能しない。
上司の把握には偏りがあるため、複数の目で見る必要がある。
人について話す時間を惜しむ会社ほど、退職・採用・育成で時間を失う。
人を育てる会社は、人について話す時間を先に確保しています。
人が辞めてから騒ぐ会社は、人について話す時間を後回しにしています。
この差が、半年後、1年後の定着率と管理職の質に出ます。
まず、自社で次の質問に答えてください。
管理職は、部下一人ひとりについて3分間、具体的に語れますか。
語れないなら、成長支援会議を始めるタイミングです。
最初から完璧にやる必要はありません。
まずは半年に1回、主要メンバーからでいい。
社員一人について、強み、希望、課題、期待、支援、機会提供を話し合う場を作る。
退職届が出てからではなく、まだ会社にいるうちに向き合ってください。
次回は、「人事制度を入れても人が育たない会社の共通点」 をテーマに、制度・研修・ITがなぜ現場で機能しないのかを掘り下げます。
